視的生活
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梅田

阪急

東三国
十三

楠本亜紀著『アンリ・カルティエ=ブレッソン−逃げ去るイメージ』(スカイドア刊)を読んだ。
1952年にアメリカとフランスで同時に出版された『決定的瞬間』は、アメリカ版では"The Decisive Moment"で、この直訳が日本語の「決定的瞬間」であるが、フランス版では" Images a` la sauvette"−−逃げ去るイメージであり、こちらの方がブレッソン自身の感覚・思想、それに何より彼の写真に近いと思われる。
ブレッソンの写真に、鷹揚な「決定的瞬間」を捉えた写真は見当たらない。
いずれにせよ、「決定的瞬間」は被写体=<世界>の側に偏在するのではなく、<世界>と<私>の連関の中で見いだされるものである。

土門拳は、『古寺巡礼』を撮る際、「仏像がファインダーから逃げ出す前に、気合いもろともシャッターを切る」と言ったそうだが、ブレッソンの「逃げ去るイメージ」と呼応する。ライカとジナー4×5という両極端のカメラを眼の延長としながら、この呼応は興味深い。
土門拳1909年生れ、ブレッソン1908年生れの同世代の巨人が掴んだ写真の本質であり、作法なのだ。

_2004.8.17